耳垢イチゴジャム

こじらせ女の独り言

無理かもしれない(後編)

LINEを交換して数分で福岡出身ではない彼が博多弁で喋りかけてきた。



私は方言問題には常に厳しい目を向けている。

例えば、岐阜県出身のA子さんがいるとする。彼女は大学進学をキッカケに京都府に引っ越しをした。

もともとA子さんは京都府に縁もゆかりもない。今までに何度か旅行したことがあるだけだ。 

しかし、A子さんは数ヶ月で京都弁をしゃべるようになる。そもそも、方言というものはアクセントの位置がうつってしまうことはあれども、自発的に口にしなければ言葉までもがうつってしまうことはないと思っている。

私はこういう「気持ちの悪いエセ方言野郎」が嫌いなのだ。



Tinderの彼もまた気持ちの悪いエセ方言野郎だった。この時点で私の心は彼から離れていった。

それから数日後、彼から突然「今日会えない?」と言われる。私はその日死ぬほど疲れていたので人と会う気にはなれなかったのだが、彼は続けざまに「オールしない?」と言った。



はい、もう無理。
気持ち悪い。



誰が知らねえ男とオールするんだよ。

成人してオールってなに?
いつまで学生気分なの?

私の頭の中は彼を批判する言葉でいっぱいになった。



出会ったこともない相手にここまで文句をつけられる人間もそうそういないだろう。私はそういう人間なのだ。



数日後、また気持ちの悪いLINEがきた。



「ハロウィンとかなにかしないの?」



おまえってさ、外国人だっけ?違うよな?日本人だよな?「とか」ってなに?ハロウィン以外になんかある?

どうやら彼はコスプレをするらしい。

うんざりだ。

価値観が合わない。ハロウィンはなにも悪くない。

でも、これ以上彼と話したくない。



LINEをブロックしてしまえば彼とは縁が切れる。ブロックしよう...と思いながら寝落ちしてしまった。

朝起きると写真が送られていた。広い広場のようなところでコスプレをした男女がただただ立っている、歩いている、それだけの写真だ。

私は彼をブロックした。



彼とは1歳しか違わないが、全く価値観が合わないようだった。出来損ないのコスプレをして目的もなく広場に行き、ただ立っている。誰かに声をかけ写真を撮る。ナンパする。ここまでくると、この無意味に見える行動はもはや「ジャパニーズハロウィン」と呼んでしまうほうがいいのかもしれない。

少なくともジャパニーズハロウィンだと思うことができれば、私の心は救われる。

こんなに気持ちの悪い人間にいちいち目くじらをたてることなく、ジャパニーズハロウィンだから仕方ないねと思えるからだ。



私はもう無理かもしれないと思ってしまった。
誰とも理解しあえないのではないか。その原因は私にあるのではないか。Tinderにいるような男と価値観があわなかっただけでここまで思うのかと言われても仕方がないが、私にはTinderも一つの世界なのだ。

満たされている人はパートナーがいることがすべてではない、セックスがすべてではない、他人に理解されなくたっていいと言える。

しかし、私にはそれが言えない。

どこか心の中が渇いている。

何かを求めている。

その何かが未だボンヤリとしていてわからない。



漠然と誰かと出会い、漠然とセックスをし、漠然と付き合うことも私にはできない。

それができたらまた違ったのかもしれない。



今後もTinderは続けるつもりだが、正直疲れてしまった。私の知らない世界にはあまりにも気持ちの悪い人間が多い。